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おれがブイヤベースを作るまで

 最近、夢に動物が出てくるようになった。先日はオオカミが出てきて、しかもおれはオオカミと一緒にダイ・インをしているんだよ。いや、正確に言えば、人とオオカミが一緒にダイ・インをしている現場に遭遇して、おれも(誘われて? どうもそこは記憶がハッキリしないんだが)参加した、というような、そんなケッタイな夢。で、これほど意味ありげではないにしろ、動物は毎日のように出てきて、なるほどなあ、と。明らかに、最近、YouTubeで見ている動画の影響、と考えられるので。東出昌大が公開しているシカとかイノシシとかキョンとかの食肉解体や、そうして食肉化された肉を使ったジビエ料理とかの動画を、最近、よーく見ていて、これは、まあ、半分は「決して目を背けてはいけないんだ」という義務感からではあるんだが、ただ、まだ子どものイノシシが鉄パイプに括り付けられて丸焼きにされる、その一部始終を見て、心のどこかが拒絶反応を起こしているのを自分でも気がついていて……まあ、それが、人とオオカミが一緒にダイ・インをしている、という夢につながったんだろう。ただ、おれは菜食主義者でもなんでもないし、実際に肉だって食っているし。経済的理由で食っているのはウインナーとかベーコンとか、そんなものに限られるけどね。でも、肉であることには変わりはない。そして、それらだって、仮に食肉として処理される過程が公開されたら東出昌大が公開しているシカとかイノシシとかキョンとかの食肉解体とそう変るものではないはず。むしろ、その過程が高度にオートメーション化されていることによって醸し出される無機質性はより「生命の尊厳」を蔑ろにしていると言いたくなるようなものに違いないんだ。それに比べれば、東出昌大が「覚悟」を持ってやっている食肉解体にはエールを送りたい気持ちは十分。だからこそ見ているわけで……でも、心は正直なんだな。夢の中でおれはオオカミと一緒にダイ・インしているんだよ。それが、東出昌大がやっていることに対する異議申し立てなのかは判断が難しいところではあるけれど……ただ、いささか見つづけるのがしんどくなってきてはいるようだ。

 さて、また料理について書く。実は、昨日、ブイヤベースってのを作ってみたんだよ。これも東出昌大がYouTubeで公開しているこちらの動画を見て興味(食欲)をそそられた結果で……まあ、東出昌大には本当に影響を被っている。しかもね、ブイヤベースなんて、本来、おれが作るはずのないものだったのだ。というのも、おれにとってブイヤベースとは「ぶいやべえす」だったんだから。と、こんなことを言われても何のことやらわからんでしょうが……かつて椎名誠を愛読していた時期があって。エッセイとか紀行文とか。結構、読んだもんだ。あの〝昭和軽薄体〟と形容された諧謔的な文体に隠された確かな批評精神が見てとれて、おれは好きだったな。そんな、当時、読んだシーナ本の1冊に『日本細末端真実紀行』というのがある。元は日本交通公社から出版されたものですが、おれが読んだのは1986年に角川文庫から出版された版。この角川文庫版には椎名誠が率いた「東日本何でもケトばす会」(略称「東ケト会」)の会員で仲間内では「ドレイのサワダ」と呼ばれていた『ブルータス』編集者・沢田康彦氏による解説「ドレイのサワダの手記」が掲載されている。で、サワダ氏によるならばだよ、「東ケト会」というのは「新しいもの、新語、新参者には異様に敏感」だそうで、そんな体質を象徴するこんなエピソードが紹介されている――「冬の猪苗代湖畔キャンプに、カメラの山本皓一氏が参加。うっかり食事どきに「ブイヤベース」などという言葉を使ってしまった。さあ隊は大変。全員「おおー」と驚き、口々に「ぶいやべえす」「ぶいやべえす」と大騒ぎ。その夜はもちろん木村先生の「ぶいやべえす甚句」で更けていった」……。このね、口々に「ぶいやべえす」「ぶいやべえす」と大騒ぎ、という道化師ぷりに隠された批評精神ね。そりゃそうさ、一体全体、ブイヤベースって、何なのよ? ハッキリ言って、正体不明ですよ。でも、こんな正体不明な西洋料理がいつの頃からか持て囃されるようになって。他にもパエリアとかカルパッチョとか、いろいろありますよ。アナタは、パエリアとは? カルパッチョとは? と聞かれて、即答できますか? できないよねえ。そんな聞かれて答えることもできないような正体不明の西洋料理が持て囃されている。そういう現実がある。そういう現実をね、シーナマコト以下「東ケト会」の面々は道化師を装いつつも鋭くヒハンしていた……と、こんなふうに言えばいささか彼らを持ち上げすぎか? でも、おれは「ドレイのサワダの手記」に活写された「東ケト会」面々の批評精神には感服したんだよ。で、以来、おれにとってブイヤベースとは「ぶいやべえす」なんだよ。それはこのトシになるまで変ることはなかったのだけれど……

 ちょうど1週間前、東出昌大が「魚とキノコのブイヤベース」ってのを披露していることがわかって、へえ、と。あの東出昌大がねえ、と。だって、まだ子どものイノシシを鉄パイプに括り付けて丸焼きにする、その一部始終を動画に収めて公開しているようなdefiantな男なんだから。それが、かつて「東ケト会」の面々が口々に囃し立てた「ぶいやべえす」をねえ……。ただ、調べたところ、ブイヤベースってのは、元々は「漁師が、見た目が悪かったり、毒針があって危険などの理由で商品価値のない魚を自家消費するため、大鍋で塩と煮るだけの料理であった」(ウィキペディア)とかで、なかなかに野趣あふれる料理だったらしい。だったら、東出昌大がYouTubeで公開しているジビエ料理ともさほど変らんのかなあ、と。きっと東出昌大が披露しているブイヤベースも相当に野趣あふれるものなんだろう、とカンが働いた。で、興味をそそられて見たところ、案の定。なんと東出昌大はこんなことを言っているんだよ――

何でしょうねえ……味噌汁は味噌入れるけど、具材に。でも、基本的にお出汁に味噌溶いたら味噌汁になるじゃないですか。ブイヤベースって言うと横文字で、さもあれだと思うけれど、フランス人に怒られるかも知らんけど、魚のアラ煮にトマト缶ぶっこんだらブイヤベースだと思うんです。アラ汁。で、それにちょっと西洋っぽい葉っぱとかオリーブオイルとかニンニクとか入れればブイヤベースになるから。まあ、我流ですけど。

 いいねえ。実にいい。特に「魚のアラ煮にトマト缶ぶっこんだらブイヤベースだと思うんです」というのが、なんとも突き抜けている。もうね、なにが「ブイヤベース憲章」だよ。味噌溶いたら味噌汁。トマト缶ぶっ込んだらブイヤベース。文句あっか! てことだな(この辺、往年のシーナ節を意識して書いております)。で、一転、英語の慣用句ふうに言えば、アナタの参考のために(for your information)、東出昌大が「ぶっこんだ」具材+調味料を一覧にしておこう。

ヒガシデ流「魚とキノコのブイヤベース」

オリーブオイル
ニンニク(刻まずに、房のまま)
タイのアラ
シマアジのアラ
ホタテ
ボンビノス貝(ハマグリみたいなやつ)
ブラックタイガー(殻を剝かず、そのまま)
イカ(丸ごと)
パプリカ(半額になってたやつ)
インゲン(20%オフ)
プチトマト
チチタケ(山で拾ってきたやつ)
エリンギ

トマト缶
セロリ(葉の部分はそのまま、茎の部分は刻んで)
タイム(茎葉ごと)
白ワイン
ブラックペッパー

 セロリを入れたのは「ブーケガルニ」ってやつの代りらしい、よくわからんのだが。「東ケト会」の面々なら「ぶうけがるに」「ぶうけがるに」と騒ぐところだな……。ともあれ、ここまでぶっこんだところで「蓋をして、しばし」。なんでもブイヤベース(bouillabaisse)とは沸騰させて(bouillir)弱火にして(abaisser)コトコト煮込んで作るからそう呼ばれている――らしい、諸説あるらしいけどね。その語源に従って、ぶっこむだけのものをぶっこんだら、しばし蓋をしてコトコト煮込む。で、頃合いを見計らって、味見をして、塩を足して、最後にオリーブオイルを足して(追いオリーブオイル)、でき上がり。さて、お味はと言うと……ヒガシデ氏、開口一番、「うわあ、めっちゃうまい」。もうね、その表情を見ればわかりますよ。

 で、思わず、おれも作ってみようかな、と。ブイヤベースを「ぶいやべえす」と言い慣わしてきたおれが、ブイヤベースを作ってみようかな、と。もしかしたら、このとき、おれの中の「シーナマコト」が「ヒガシデマサヒロ」によって上書きされたのかも知れない……。

 ただ、↑に列挙した具材を全部ぶっこんだらとんでもない量になる。東出昌大と違っておれは一人暮しだから。で、一人で食い切れるように具材を絞り込むとともに、それが最寄りのスーパーで売っているかどうかという問題もあるわけで。結果、具材+調味料はこんな一覧となった。

オカムラ流「魚とキノコのブイヤベース」

オリーブオイル
ニンニク
ブリのアラ(タイのアラの代用品)
バナメイエビ(ブラックタイガーの代用品)
パプリカ
生シイタケ(チチタケの代用品)
エリンギ

トマト缶
ローズマリー(タイムの代用品)
白ワイン
ブラックペッパー

 で、でき上がったのが、↓です。


オカムラ流ブイヤベース

 実は、メインの具材として貝をとるか海老をとるかで迷ったんだけれど、Googleの検索で表示されるブイヤベースの写真には、大体、海老が入っているんだよ。確かに、海老が入っていると映えるしね。ということで、写真で紹介する場合の見映えを意識して海老を選びました(その割には映えていない? やっぱりね、丸々1匹じゃないと映えないんだよ。でも、触覚なんて食べないわけだし……)。

 で、大分、具材は抑え目にしたんだけれど、それでも多い。でも、ある意味、それは想定内で、残りをスープパスタの具として、これを以て〆とした。それが、↓。


オカムラ流スープパスタ

 どっちも、上出来ですよ。
 椎名誠著、沢野ひとしカバー・本文イラスト、沢田康彦解説、角川文庫版『日本細末端真実紀行』を読んでから、かれこれ40年。
 40年かかって、ここまで来た……。